遺言とは?遺言の効果や遺言書の種類を解説します!

相続に備えて生前にできる対策として、もっとも一般的なものが遺言です。
遺言書を残しておくことで、自分が考えるとおりに財産を渡すことができ、また相続人間でのトラブルの芽を事前に摘んでおくことができます。
遺言書にはいくつか種類がありますが、それぞれメリットとデメリットがあるため、正しく理解してご自身に最適な種類の遺言を選ぶことが重要です。
ここでは、遺言によってできることや、遺言書の種類について解説していきます。
- 遺言によってできること
- 遺言書を書いておいた方がいいケース
- 遺言書の種類とそれぞれのメリット・デメリット
目次
1.遺言とは
遺言とは、亡くなった人(被相続人)が生前に「自分の財産を、誰に、どれだけ残すのか」についての意思表示をするもので、それを書面で残したものが遺言書です。
遺言書があれば、原則としてその内容のとおりに遺産を分割することとなるため、相続人同士での争いが起こりにくくなります。
2.遺言でできること
遺言によって、法定相続分とは違う割合で相続をさせたり、相続人以外の者に財産を残したり(遺贈)することができます。遺言を実現させる者(遺言執行者)を指定することもできます。
遺言でできることの例は次のとおりです。
- 相続分の指定
- 遺贈の指定
- 遺言執行者の指定
- 遺産分割の禁止
- 相続人の廃除
- 後見人の指定
- 相続人相互の担保分の指定
- 隠し子などの認知
3.遺言書を書いておいた方がいいケース
遺言を残すことで様々なメリットがあるため、基本的にはどのような方にも遺言書の作成をおすすめしますが、特に遺言書を作成しておいた方が良いケースの一例をご紹介します。
①相続人同士の仲が悪い場合
遺言がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。このため、相続人同士の仲が悪いともめる可能性が高くなります。遺言書であらかじめ相続の内容やどうしてそのように相続させたいのかという理由を明確にしておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。
②夫婦に子供がいない場合
夫婦間に子供がいない場合、残された妻(夫)と義理の父や母、もしくは義理の兄弟姉妹が相続人になる可能性があり、その全員で遺産分割協議を行うこととなります。
普段から交流が少なかったり、仲が良くなかったりする場合には、遺産分割でもめてしまう可能性が高くなります。このため、夫婦間で配偶者にすべて相続させるという内容の遺言を残しておくことが効果的です。
③相続人ではない人に財産を渡したい場合
献身的に介護をしてくれた子供の配偶者や、お世話になった友人など、法定相続人ではない人に財産を渡したい場合、遺言書によって実現することができます。
④特定の者に事業承継を考えている場合
同族会社の株式などは、兄弟間で均等に分けるより、事業承継者にすべて相続させるよう決めておいた方が、会社経営がスムーズになります。
⑤内縁の妻(夫)がいる場合
長年一緒に生活しているなど、事実上の婚姻関係があっても、入籍していない以上は一切相続権がありません。長年連れ添った相手に財産を残したい場合、遺言によって遺贈をすることができます。
⑥相続人の中に行方不明者や判断能力に欠ける者がいる場合
相続人の中に行方不明者や判断能力を欠く者がいても、排除して遺産分割することはできません。行方不明者の場合は不在者財産管理人を選任し、判断能力を欠く場合は成年後見人を選任する必要があります。これらの手続きには大変な労力がかかるため、遺言書を残しておくことが効果的です。
少しでも心配なことがあれば遺言書の作成の検討を
以上6つのケースを挙げてきましたが、これはほんの一例です。各家庭で事情は様々に異なるため、状況に合わせて遺言書の作成を検討することをおすすめします。
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4.遺言書の種類
遺言書には「普通方式」と「特別方式」があります。特別方式とは、普通方式遺言の作成が不可能な緊急事態のときに作成する遺言書です。たとえば船舶や飛行機の事故などで死亡が目前に迫っている状況にある場合などに作成するものです。
特別方式の遺言は作成できる場面が限られているため、ここでは普通方式の遺言書について説明します。
普通方式の遺言には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。それぞれの特徴は次のとおりです。
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 | |
---|---|---|---|
作成者 | 本人が自筆(ただし、財産目録のみパソコン可) | 本人が口述し公証人が筆記 | 基本は本人(パソコン、代筆可) |
証人 | 不要 | 2人必要(未成年者や利害関係がある人は不可) | 2人必要(未成年者や利害関係がある人は不可) |
保管 | 遺言者本人又は法務局 | 原本は公証役場、正本・謄本は遺言者本人 | 遺言者本人 |
秘密性 | 遺言の存在・内容を秘密にできる | 証人から遺言の存在、内容が漏れる可能性あり | 遺言の存在は秘密にできないが、内容は秘密にできる |
紛失の可能性 | あり(法務局保管の場合はなし) | なし(紛失した場合再発行可) | あり |
無効の可能性 | あり | 可能性は低い | あり |
検認 | 必要(法務局保管の場合は不要) | 不要 | 必要 |
5.自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者が自筆して作成する遺言書のことをいいます。筆記用具や紙に決まりはありませんので、手元にペンやメモ用紙、そして印鑑があれば、すぐにでも作成することができます。
従来は遺言者が全文、日付及び氏名を自書し、押印する必要がありましたが、財産目録はパソコンで作成したものや、通帳のコピーを添付する形なども認められるようになりました。(ただし、全てのページに署名と押印が必要です。)
公証人の関与は不要ですが、内容や様式に不備が生じる可能性があり、偽造や破棄、紛失の恐れもあります。また、相続開始後には原則として遺言書の検認手続きが必要(※自筆証書遺言書保管制度を利用した場合は不要)です。
自筆証書遺言のメリットとデメリットは次のとおりです。
自筆証書遺言のメリット
- 誰にも関与されずに自分の意思だけで自由に内容を決められる
- 作成後に誰にも知られないところに保管しておけば、秘密を守ることができる
- 自分で作成するので費用がかからない
- 自分が思い立ったときに、いつでもどこでも作成できる
自筆証書遺言のデメリット
- 誰もチェックしてくれないので、書き方を誤って無効になることがある
- 自分で保管するため、紛失したり、発見されなかったり、誤って廃棄されてしまう可能性がある
- 改ざんされる可能性がある
- 自署、署名ができない場合は作ることができない
- 発見された後、家庭裁判所で検認の手続きをする必要がある(自筆証書遺言書保管制度を利用した場合を除く)
自筆証書遺言保管制度について
自筆証書遺言であっても、「自筆証書遺言保管制度」を活用することで、上記のデメリットをいくつか解消することができます。
2020年7月10日から始まったこの制度では、自筆証書遺言を法務局に預かってもらうことができます。これにより、作成した遺言の紛失と改ざんの恐れがなくなります。また、遺言者の死後、相続人が遺言書の存在を法務局に確認することができるので、見つからないというリスクも低くなります。さらに、家庭裁判所による検認も不要になります。
6.公正証書遺言
公正証書遺言は、証人2名の立ち会いのもと、公証役場にいる公証人が関与して作成します。公証人に自宅や病院に出張してもらうこともできます。
公証人手数料がかかりますが、検認が不要であることや、原本は公証役場で保管され、偽造や変造、破棄の恐れがないことから、生前の対策としてはもっとも有効なものといえます。
公正証書遺言のメリットとデメリットは次のとおりです。
公正証書遺言のメリット
- 公証人が関与するため形式的なミスが発生しない
- 公証役場が原本を保管するため、紛失や改ざんが起こらない
- 本人が字を書けない状態でも、公証人に内容を伝えることができれば作成できる
- 検認の手続きが必要ない
公正証書遺言のデメリット
- 公証人と2人の証人に遺言のすべてを明らかにするため、時にはプライベートな部分まで明かさなければならない
- 公証人手数料や証人立会日当などの費用がかかる
- 公証人と証人が必要なため、作成に手間がかかる
7.秘密証書遺言
秘密証書遺言は、内容を秘密にしたまま、存在のみを公証役場で認証する遺言書です。
遺言者が署名捺印した書面を封印し、公証人と証人2名にその封書が自己の遺言書である旨を申述する必要があります。
誰にも内容を知られずに作成することができますが、自筆証書遺言と同様に、内容や様式に不備が生じる可能性があります。また、相続開始後には遺言書の検認手続きも必要です。
秘密証書遺言のメリットとデメリットは次のとおりです。
秘密証書遺言のメリット
- 誰にも知られることがなく、自分の意思だけで自由に内容を決められる
- パソコンでの作成が可能(署名と捺印は必要)
- 遺言書の存在を公証役場で証明してもらえる
- 公証人への手数料が公正証書遺言に比べて安い
秘密証書遺言のデメリット
- 誰もチェックしてくれないので、書き方を誤って無効になることがある
- 自分で保管するため、紛失したり、発見されなかったり、誤って廃棄されてしまう可能性がある
- 公証人手数料や証人立会日当などの費用がかかる
- 公証人と証人が必要なため、作成に手間がかかる
- 相続開始後、検認の手続きが必要となる
8.まとめ
ここまで見てきたとおり、遺言書には3種類があり、それぞれメリットとデメリットがありますが、最もおすすめできるのは公正証書遺言です。
公正証書遺言は、作成に手間や費用がかかるものの、「無効になりにくい」「紛失・隠ぺい・改ざんのリスクが少ない」「検認が不要」といったメリットが非常に大きいことが理由です。
また、どの形式を選択した場合でも、一番重要になってくるのは遺言の内容です。より良い内容にすることで、相続にまつわる争いを未然に防ぐことにつながり、残された家族が円満に過ごすことができます。
いちはら法務事務所では、相続手続き全般に精通した司法書士が、遺言の作成方法や内容の決め方など、皆様の想いを確実に残すためのサポートをいたします。
些細な悩みと思われても、お気軽にご相談ください。